今インドネシアで騒がれている「雇用創出オムニバス法」って何?

みなさん、こんにちは!

今回は最近インドネシアのニュースでよく取り上げられている「雇用創出オムニバス法」(オムニバス法)について解説したいと思います。

「雇用創出オムニバス法」とは?

インドネシア政府は今年の2月12日に「雇用創出オムニバス法」なる法案を国会に提出しました。この法案の最大の目的は雇用創出です。現在のインドネシアはいわゆる「人口ボーナス期」のピークを迎えています。生産年齢人口の教育レベルも高くなり、この人たちが、しっかりと就業できるようになることが、この国の経済発展につながるといえます。しかしながら労働市場は極めて競争的で、高等教育を受けても就職が困難になっています。その原因として製造業が弱く、十分に雇用の受け皿になっていないことが挙げられており、インドネシア政府としてはこの法案で製造業を活性化し、雇用創出につなげることを目指しているのです。

「雇用創出オムニバス法」は外資のメリットがたくさん

雇用を生むためのオムニバス法ですが、その内容は外資系に有利なものとなっています。まず、この法案では外資規制に関する法改正が予定されていて、その内容は中小企業に関する定義の変更、投資優遇リストの導入、外国のスタートアップに対する就労許可の優遇などとなっています。

雇用創出オムニバス法案に含まれる11分野の法改正のうち、企業の事業活動に大きく関係するのは、事業許認可、投資要件、労働、中小零細企業、事業便宜、土地収用、経済地区の7つの分野です。特に、中小零細企業法の改定が外資規制に与える影響は大きく、現行の2008年法律第20号では、外国企業を一律に大企業分類と位置付ける一方、中小企業の定義を、全ての業種で「純資産100億ルピア(約7,900万円、1ルピア=約0.0079円)以下、もしくは年商500億ルピア以下」と定められているためです。この法律が、中小規模の外国企業がインドネシアに進出できない制度上の要因となっていました。

今回の法案では、中小零細企業の定義を定める条文を撤廃し、代わりに、純資産、年商、投資額、雇用者数によって、事業分野ごとの定義を下位法令(政令)で定めるとしています。これにより、業種によっては、中小企業の要件金額が緩められる可能性があり、外国企業が進出しやすくなると期待されています。

また、投資活動の基本法である法律2007年第25号も、一部改正される見通しです。現在インドネシアは、500超の事業分野について内資との合弁義務(ネガティブリスト)を定めていますが、オムニバス法案では、ネガティブリストに関する記載を条文から削除しています。代わりに、詳細を大統領規程において定めるとしています。経済調整府などの説明によると、従来のネガティブリストを衣替えし、政府が投資優先する分野を打ち出したプライオリティリストを導入する見通しです。同調整府によると、優先分野に含まれるものは、ハイテク産業、大規模投資、デジタル産業、労働集約型産業となっています。ネガティブリストを廃止するのかどうかは、今後の推移をみる必要がありますが、より多くの分野の投資を呼び込む方針に転換していくと期待されています。

さらに、外国のスタートアップについては、労働法の改正案の中に、外国人雇用計画書(RPTKA)なしでもインドネシアにおいて、外国人が働くことができるといった規制緩和につながる条文が盛り込まれています。

【雇用創出オムニバス法】の抱える問題点

上記で説明したようにオムニバス法は外資にとってメリットの多い法案となっています。一方でインドネシア国民の目にはどう映っているのでしょう…

実はインドネシア労働団体によるオムニバス法案反対のデモが起きています。労働団体は雇用創出の名の下で、製造業への外資誘致が優先され、労働法で保護されている労働者の権利がないがしろにされる事態を懸念しているのです。労働組合は、このオムニバス法案は投資家、そして大企業重視だとして反対しています。法案には、時間給雇用制度の導入や解雇手続きの簡素化、外国人労働者雇用の規制緩和なども盛り込まれている。雇用の流動化を促すものの、労働者側に雇用の不安定化・喪失などの不安をもたらす可能性を組合は懸念しています。

この労働問題と同時に環境問題も抱えています。

同法では、投資促進のため、事業実施の際に必要だった「環境影響評価」をなくす方針を示しています。この結果、環境より事業者を優先した開発プロジェクトが多く立ち上がる心配がされています。今、各地で環境団体が森や海を守ろうと尽力していますが、そういう活動も、今後は企業活動への妨害として「犯罪化」される懸念が高まっているのです。

環境と開発のバランスは昔からの悩みではあったものの、ここにきて「アンチ環境」への揺り戻しが顕著になりつつあります。

 

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